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12月, 2018の投稿を表示しています

まだ若い頃、決まってみる夢があった。目の前は文字だらけである。くすんだ白地のスクリーンに縦書きの文字が流れていく。ひらがななのか漢字なのか見定める余裕もない。ただ、ずっとそれを追っていかなくてはならないのが、私の役目なのだ。意味も理解できず、ただ追い続ける。続けて行けば「よくできました」と、ご褒美がもらえるのだろうか、怠けた場合は罰があるのだろうか、頭の片隅にそんな合理的な自分を感じたまま、目一杯だとは感じるけれど、頭の片隅の私は中途半端な妄想をはじめる。 決して早くはないのだが、定期的なスピードをもって文字は流れていく。意味など考えている暇もなく、迷っている暇もない。一時停止も、老化が始まって、処理能力の落ちたこちらの事情も汲んではくれない。「容赦ないやつだ」とひそかに舌打ちしても、こちらのことなんかお構いなしだ。 『ダンスダンスダンス』※である。考えずに反射で進んでいく。考えたら、決断力の乏しい私のこと、ステップは乱れだし、すべて放り出したくなるかもである。きっと大丈夫、できは良くなくても、きちんと文字をトレースし続ければそんなに大きな間違いはしないだろう。もうこれはほとんど馴れである。 夢から覚めて気づく。生きるって、きっとこういうことかも知れない。ある時期からそんな夢は見なくなった。 ※『ダンスダンスダンス』村上春樹 著