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狼月

今年最初の満月は29日。アイスムーン(氷月)とか、ウルフムーンという名がついているらしい。
名づけ親はネイティブアメリカン。彼らは、農作業の指標や、季節に関係の深い風景生きものの名前をつけて、月と親密につき合ってきた。狼は、ネイティブアメリカンにとって、神格化された特別な存在らしい。真冬の食糧不足を嘆く飢えた狼の遠吠えにちなんだ名前を1月の月につけた。


年が明けて、景気の良いことを考えたいけれどもそうもいかない。
コロナが収まらない。重症者数や死者が増えていることを考えると、より深刻になっていると言っても過言ではないだろう。音もなく静かに足元にある。対岸の火事のように捉えていてはいけない。コロナによる経済的な脅威も課されている。

コロナではないが、一昨年の水害で更地となった土地が増えた。近隣の飲食店も暖簾を下げたり、貸店舗も取り壊される。天変地異、疫病の脅威。目に見えて予測できないものが私たちの生活を脅かす。


コロナ警察ではないけれど、自粛に疲れ、自粛を軽視する人々に呆れ、時に自粛を強要する人々に批判の気持ちを持つ。制限がある時期だから、気晴らしの方法もインドアで考えなくてはならない。閉塞感だ。狼のように遠吠えしちゃうぞ。うぉーーーん。


夢を見た。私は顔が見えない親しい人たちと薄闇の大きな橋の上にいる。街灯は消えている。メンバーの1人はゲストである。普段は明るい橋であること、陽の差したこの橋から見える景色の美しさ、ここが愛すべき場所であることを、私はゲストに訴えている。 遠い空に花火が上がる。綺麗だ。ひそやかだけれど幸福感を与えてくれるサプライズ。偶然見ただけなのに、この花火が自分の故郷の美しさのようで、誇りにさえ思う。

橋の向こうで武装した団体が、取り締まりを行っている。私たちは呼び止められて、彼らに囲まれる。咎められている気がした。この時間、この場所に存在していることに、己の愚かさを突き付けられた気がした。存在を全否定され気がして、情けなさに打ちひしがれる。

心の中で必死に訴える。理解してほしい。悪いことはしていない。だってここは美しい場所だ。幸福感を持てる場所だ。みんなで幸せを感じたいだけだ。悲しさは減るべきだ。みんなが勇気と温かな気持ちを望んでいるのだ。みんな同じ思いでがんばっている。だから、一括りに悪者扱いしないでほしい。責めないでくれ。自分が完全じゃないことはわかっている。今だけを切り取って、表面だけ見て判断しないでくれ。

しかし、気づけば彼らの視線は暖かい。必死になって正当性を訴えた自分が卑小に思える。心細さと不安に支配されていたことに気づかされる。不安定な自分と向き合って、なにかが溶けていく。きれいで温かな水流が胸に広がっていく。

まだ朝は来ない。窓を開ける。冷気が部屋に入ってくる。見上げれば冴え冴えとした星が夜空に映えている。明日も明後日も、曇っても雨降りでも、いつだって雲の上に星がある。禍々しいものが蔓延しているのは雲の下だ。明けない闇はない。もう少し。もう少しで太陽が昇ってくるだろう。