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出世の石段

愛宕神社に来た。大河の最終回を見て、同じ名前を訪れたくなったのだ。

なにこれ、出世の階段?まっすぐにだだーんと急傾斜の階段が私の前に立ちはだかる。こんな直接的な道筋に呆然とする。上の世界を想像できないまま、豆の木によじ登り始めたジャックの果てしない時間への向き合い方にも感嘆するが、この階段も大概途方に暮れそうだ。すげえな。


階段を年配のトレーニング姿の男性が軽々と登っていく。中段では、豪華なお姉さまがピンヒールで登っている。迷いない覚悟を滲ませ上を目指す。健康も若い野心も微笑ましいなあ。

意を決して足を踏み出す。登らなければお参りできないし。
急な傾斜、石段のひとつひとつが思ったよりずっと高い。足元を見ながら歩を進める。この階段、スベラーズ的な要素もないじゃないか。恐怖がせりあがってくる。自分の足なのにそうじゃない気がする。怖い。


いつかドラマで階段てっぺんから突き落とされるシーンを見たぞ。「相棒」の予告映像か?やだ、怖い。
頭のなかでその時BGMが鳴り響く。上から誰かが迫ってきたらどうしよう。それが故意じゃなくても、誰かが落ちてきたら避けるどころか踏みとどまれるか?じゃんじゃんじゃーーーーん⤵じゃんじゃんじゃーん⤴…いや、これは相棒じゃなくて、火曜サスペンスのBGM。
思考が引きずられ、マドンナたちのララバイが岩崎宏美ちゃんの美声で響く。めっちゃ昭和じゃないか。何年経つんだ。ちがうちがうちがう。集中して階段を上るんだ。もう途中まで来ちゃったし、降りるのはもっと勇気がいるぞ。

いやいや出世の道のりは怖い。前を行くゴージャスなお姉ちゃん、その勇気を称賛しよう。そうか、出世には覚悟が要るのか。こんな中段で恐怖にへこたれていてはだめなのだ。そういえば私ったら高所恐怖症じゃなかったか?目の前の欲に誘われ、ふらふらとここまで登ってきちゃったものの、覚悟なんてもともとありませんでした。出世は怖い。神様、もしかしてこの恐怖は、私の覚悟のなさが問われているんですね?怖い怖い怖い。足が竦む。

エレベータに乗って、ランドマークタワーで行くのは楽ちんだけど。大井町京浜東北線の連絡通路エスカレータもちょっと怖いけど。この広い階段を自分の足だけが頼りなんだ。やだわ。なんとも心許ない。手すりに依存しながら、休み休み進む。休むたびに、恐怖で足が竦む。登り切った野心家のお姉さまに、ふっと笑われたような気がした。かっこ良くても悪くても、登りきることが大切なのだ。到着すれば課題は突破できる。腐らず踏み出そう。

登り切ってみれば、左手には駐車場がある。右手には傾斜が緩やかな“女坂”なるものがある。ほっとしたと同時に、急な階段だけを見て、圧倒されて他の情報を得ていないことに気づく。手段は一つじゃなかったのだ。

参拝を済ませ、弁天池の鯉を眺めながら散策する。駐車場には、終戦を憂いて亡くなった方々の追悼碑があった。コロナとか、制限された人々の苛立ちやいろいろなことがあるけれど、戦時中に比べたらきっと今は断然平和なのだ。暖かな陽射しをそのまま享受し、私たちは幸福を感じられる。

さて、帰りますか。帰りは緩やかな女坂を下って行こう。また来てみようかな。社員を裕福にするには、会社自体が出世しなくてはならない。
そのためには、世の中に認めてもらえる心を作っていかなければならない。今日は自分の臆病さを知ることができた。弱さや迷いを払拭するなら、やはり訓練は必要だろう。また、登りに来ようかな。覚悟に練習がいるなら克服するのもいいな。誰もいない階段をハナ歌交じりで下っていったら、これから咲くであろうほの朱いつぼみが励ましてくれるように見えた。