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春光

葉桜である。新緑である。ちっちゃな体に色とりどりのランドセルである。これぞ春、キラキラだ。
久々にのんびり過ごす。淹れてもらったお茶がおいしい。ベランダに出ると、黒々とした土と、すくすくと5つの双葉を抱えたプランターがある。この土は栄養価が高そうだぞ、買ったら高いぞ、双葉も爽やかだぞ。なによりきれいに並んで、日曜朝にTVに出てくる戦隊もの5人レンジャーみたいじゃないか。いやいや、えっとなんだこれ?なぜ、プランターが屋根の上にあるんだ?


聞いてみれば、「Twitterに上げるんで家庭菜園はじめるって言ったじゃないですかあ」の答え。そうかそうか、家庭菜園か、なんだか豊かでいい感じだ。そういえば、ウチには植物とガーデニングを愛している人達が多かったな。さて、この双葉ちゃん5人組は大きくなったらなにになるのかな?

え?はつか大根?まわりが赤くて、中身の白いやつ?え?ナマで齧るの?と思っていると、「これが収穫出来たら、次は白菜いってみますかね」、「いやキャベツがいいよ」、「えー。楽しみ」などみんな楽しそうである。


デリバリーカーで買ってきたチャーシュー丼を頬張っているK女史、手の込んだお家カレー食べてるT女史、ペヤングとコロッケ食べてる課長。ねえ課長、キャベツできたら、ちぎってチンして、そのペヤングに入れちゃうわけ?想像しただけでワクワク来るねえ。けれども、事務所のなか、わりと結構な匂いするんですけど。そんなこと言ったら、空腹が故にひねくれているように聞こえちゃうかしら。なんだろう。猛烈におなかがすいてきた。
白菜は水炊きにするの?それとも豆乳鍋?なんなら樽買ってきて、キムチもここで漬けちゃおうかって。わいわいがやがやなんでもないこのお昼のひと時、なんだかとても幸せなんである。

メンバーの多様な価値観を揉んでも、オサレなカモミールとか、レモングラスとかには傾かなかったよう。実を取る前提で植えたらしい。花より団子のその感性、さすがウチらしいな。考えた結果のチョイスも、なかなかセンスがある。
プランターの種類を選定し、土はO女史ばあちゃんチの肥沃な庭から調達し、種を撒いて芽が出たところで間引きして、今、ピカピカの“はつか大根レンジャー5人隊”だ。植えるまでのそんなワチャワチャな過程を想像するだけで、なんとも柔らかな種が干からびている心に芽生えてくる。“レンジャー5人隊”の育つ過程を嬉しそうにそれぞれが慈しんでいる。そして、それが出勤時やお昼時の共通話題になる。なんだかとてもいい感じだ。

庭の花周防もいつのまにか花を終えていた。くすんだ花の上で新緑がすくすくと美しい色だ。
春も過ぎて、もう初夏なのかなあ、伸びない緑はないなあ、栄養を十分に与えて、想定される障害を回避。それだけで、“はつか大根レンジャー5人隊”はのびのび育つ。いいなあ、4月の陽の光と涼やかな風、そして大切にされている“レンジャー5人隊”、育むメンバーたちの豊かさ。自然の恵みは偉大だなあ。愛だなあ。

さて、今日も頑張っていこう。いやいや、そのまえに昼ご飯だ。ついでにレンジャー5人隊と相性の良いドレッシングも見てこよう。
「いってらっしゃーい」の声とまぶしい陽光を浴びる。もしかしたら、来年あたりこのスペースはプランターに占領されていたりして。わくわくするような懸念を抱え、昼食メニューを考える。