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つなぎますプロジェクト

「若者が地域づくりの担い手となりえるコツ」に参加してみた

「ぜひ拡散してね」。呼びかけには素直に応じてしまうたちである。呼びかけたのは、地域づくりの第一人者である廣瀬隆人先生。先生の名前が書いてあるチラシを見ると、反射的に申し込んでしまうんである。

~つなぎますプロジェクト~。
何と何を繋ぐんだ? 突っ込まれそうなタイトルだけれども、私をはじめ、この会に参加申し込みした人たちは既にもう知っている。先生が、「繋ぐ→行動化→感じる→未来を創造」を取り組んでいるのは地域とそこに住む人々の相互活性化、それを支える自律性と積極性。自分の手で地域の未来を創る活動だ。

15年ほど前、行政から調査分析報告の仕事を受注した。過疎化が懸念されている地域を尋ね、そこの生活を知って住んでいる方々にヒアリングをして報告書にまとめていくものだった。
質問項目をヒアリングし、必要に応じて理解を深めるためにインタビューを進めていく。若者が減っていく、少子高齢化による学校の統合、分校、廃校。そして失われていく祭りや手が届かなくなる共同活動についての現状を知った。
同じ地域内でも長老的な方、女性リーダーの認識、子育て実行中の年代の方が未来を見る視点、課題、感じ方は少しずつ違う。「良き時代」を振り返って時代を惜しむ声よりは、こうしたい、行政にはこういう支援をしてほしいという意見の方が勝っていた。
初めて聞く地名、初めて行く土地、初めて会う方々。川のせせらぎ…ちがうな、渓流の流れ音は意外に大きくて、鳥のさえずりも相まって相手の声が聞こえない時もあった。県内で有名な催しのルーツ、野仏など昔からある石碑などや地元の神社への愛着。増えてしまった空き家についての課題(笑い話のように伝えてくれるけれど、ぞっとするような話である)。なかでも自分がまるで無知だったと驚愕したのは、山に対する認識だ。広葉樹から針葉樹へと変わってしまったことで、山崩れが起きやすくなる。山が痩せてしまうと鳥獣害被害も大きく影響してくる。
大きな戸惑いからはじたものの、未知の地域のすばらしさ、そこに住まう方々の文化、大きな視点で自然と向き合う姿に感銘を受けて、当時の私はズバンズボンとはまってしまったのである。
定年になって自由の時間が増えたら、地域に関することをやりたいなあ。どうしたら、識ったことを未来に繋げる手伝いができるのかなあ。小さな変化を生むようなことで良いから。でも、この感動をあと約20年持続させることはできるかなあ。そのためにと、時間を見つけて関連のセミナーを拝聴し、慣れてくるとワークショップに顔を出した。たまにの参加だし、参加される方も楽しいから、興味は全然持続した。大きくなっていった。そんな中出会ったのが廣瀬先生である。

廣瀬先生は宇都宮大学の先生で、退官後も協働によるまちづくりの調査研究、支援・協力、政策提言等を積極的に行っている。強気な態度で(先生、ごめんなさい)、べらんめえみたいな口調で率直な物言いをする。でも、その言葉、その姿勢は聴いている者に感銘を与える。行動に影響を与える。「できることを見つけてやってみようかな」の気持ちを大きくする。
以前のセミナーでは、県外の引きこもりの若者を外に出す活動についての報告があって、とても興味深いものだった。誰にでも「役に立ちたい」と思う心が根っこにあるんだっていう大事なことを教えてもらった。
最初、引きこもり若者に対して、行政は「楽しいことなら興味を持ってくれるかも知れない」と、「一緒に楽しく卓球をしませんか?」というチラシを、該当する家庭にポスティングしたのだと言う。しかし、参加者はゼロ。そこでアプローチを変えてみた。美味しいニンジン(若者にとってニンジンは美味しいわけではないだろうけれど)で誘うのではなく、「こんなことあってさ、困ってるんだ、助けてよ」と助けを求めた。
後継者のない商店での手伝いを投げかけた。ぽつりぽつりと参加者があり、今までの生活の中で関りのなかった人々との関係を相互の力で作り、小さな勇気がそこかしこで密かに生まれ、活動へと繋がった。小さいけれども確かな親密さは相互を支え合う形となって今も継続している。そんな夢のあるファンタジー様の、しかし骨太で地に足の着いた事例が、確かに育ったのだと伝えてくださった。
それは、自分の行動が、自らの心に勇気と自信を育み、心の核に植え付けていく。自分で培い継続させることで生まれる効果は強い。それは、廣瀬先生ご自身が、若者や商店主などや、その地域に住む人たち全体を信じて活動している証明でもあった。

18時開始である。席を勧められる。机の上に置かれているのは資料ではない。敷かれた白紙の上に置かれたかりんとうとチョコレートクッキーだ。前の方に座る。
正面には今日発表してくださる方たちがいる。左にN市地区公民館長(I女史)さんと青年団の方、その後ろに3人の女子高生。
右側にはO市の見守り隊兼生活支援コーディネータさんと某新聞社(O市担当)の方。後ろに女子大生が着座している。その斜め後ろに進行を務める廣瀬先生&精鋭事務局一団。我々参加聴講者とはお見合い形式のレイアウトである。

今回のセミナーは、県内のN市とO市での「地元の若者が『地元で人とつながる力を育てるプログラム』」の報告である。ご年配の方と、学生たちを交流の場で気持ちを繋ぐ活動だ。びっくりしたのは、N市の若者(高校生!)が青年団に参加していること。気軽に参加して、お年寄りと一緒にご飯を食べて、掃除したり遊んだり、お互いにお話をして聴いて、交流を図る。今年の夏、学校の体育館で行われた「小さな小さな夏祭り」とO市での「七夕まつり」。
制服姿の高校生、そしてO市の大学生は、目を輝かせて「楽しかった!」と口にする。写真で見せてもらったご年配の方は、宝物を両手に載せている表情を見せてくれている。若者はご年配の方々の苦労や転機などを聞いて、進路や今生きていることへのヒントをもらう。

はじめのうちの目的は、進学に備えて学生活動だったという高校生たち。年代の差もあって、ご年配者の中には耳の遠い人も多くて、コミュニケーションがうまくいかないこともあったけれど、自分なりに考えて相手に伝わる方法を考えて乗り越えた。O市の大学生は、「最初はクローズドクエスチョンで話を進め、興味のありそうな反応はオープンクエスチョンでやっていく。これって戦略的で純粋じゃないかもしれないけれど」などと仰る。
ひえー。大人じゃん。大の大人から、こんな積極性なコミュニケート手段はなかなか聞けないぞ。3人の高校生は、やってきた独自の方法を披露する。それを聞かされている私たち参加者は圧倒された表情で、もっともっとと知りたがる。すごいな。高校生なんて、自分のぐるりのことを考えるだけで精いっぱいだろうにと、勝手に思い込んでいるこちらの価値観を見事ひっくり返してくれる。そしてその活動は、参加した4人に目標を与え、未来やキャリアをも導いてしまっているものなのである。

廣瀬先生は「ご年配者が若者に求めるのは支援じゃなく交流」と力強く断言する。
なかでも私の心をぐっとつかんだのは、女子高生の話を背中で聞く、時間をかけてそんな若者に向き合ってきた地元のコーディネータの女性、I氏の表情だ。ザ・感動。何とも言えない表情で、時には泣きそうになるのをこらえているように聴いている。心底うらやましい。あーうらやましい。どんな気持ちでこれを聞くのか、どんな思いで自分やコミュニティの経過を受け止めているのか、手に取るようにわかる。時間をかけてきた大切なものの成果を確認できること。それ以上に至福なことなどあるものだろうか。

価値ある会である。しかも無料なんである。しかし、廣瀬先生はお気楽参加を許さない。挙手なしでもバシバシ参加者に感想を求める。発言内容の真意をありのままに捉え、明るくフィードバックしてくださるものだから、のびやかな意見交換が可能になる。要約なり、質問の意図をかみ砕いて滑らかな意思疎通を図る通訳だったり、深耕させる問いかけなんかがついちゃうものだから、参加者ほぼ全員から疑問点や感想を募り、ではどうしたらなんていう提案まで引き出してしまうのである。
セミナーの最後に、廣瀬先生はSNSや口コミで、このことを伝えてね。未来を信じて、傍観者にならず、できることはやっていこうよ。何度も言うけど、この活動をみんなに広めてよね。みんなにこの思いが伝わるように。未来をつなぐ活動はできることをやってみることなんですよ。気軽な気持ちが、積極性な意思を生み出し、身近な人と共有することで、これからの行動がきっちり見えてくるものなんだ。だからまだ知らない人たちに伝えていってほしいんだよね。
廣瀬先生、私SNSの方法はよくわからないんだけれど、ちゃんと今できることを考えるね。ということで、このコラムで発信します。

「つなぎますプロジェクト」。確実に未来が骨太になるプロジェクトです。自分も地域も大人も個人も、自信を培い、未来を力強いものにしていくプロジェクトです。
情報は、県庁横にあるぽ・ぽ・ら、NPO法人とちぎ協働デザインリーグにたくさんあります。ぜひ、興味を持ってみてください。心の中に小さな変化を見つけたら、身の回りを見渡してみてください。小さな気づきがこれからを豊かにする。そんな視点で“今”を見てほしいな。あらら、なんだかちょっと恥ずかしくなるような提案だ。でも、少しでも多くの人に、この気持ちよさが伝わると良いなと思っているんである。

『とちぎ協働デザインリーグ』サイトLINK